FOSS4G2015アドベントカレンダー12月17日の投稿記事です。
紹介するのは、昭和23年に米軍によって撮影された航空写真を使った小学校4年生向けの社会科授業の教材作成です。
70年前の日本がわかる昭和23年米軍撮影航空写真
昭和20年の敗戦後、日本列島はアメリカ軍によってくまなく航空写真を撮影されました。
この航空写真は、国土地理院の
空中写真閲覧サービスや
地理院地図で誰でも閲覧することができます。
また、高解像度の画像も
日本地図センターで印画紙またはデータで購入することができます。
昭和19年に日本軍によって撮影された航空写真も米軍撮影写真と同様に公開されていますが、米軍撮影航空写真のほうが解像度も高く利用しやすいので、通常はこちらを使うべきです。
面倒な幾何補正
地理院地図のページから画像をダウンロードしてもよいですし、高解像度の画像(1200dpi)を日本地図センターで購入しても良いです。
しかし、そのままでは使えません。
GISで航空写真を扱うには「幾何補正」という作業が不可欠です。
この作業が面倒です。
幾何補正にはQGISのジオリファレンサーという機能を使います。
ジオリファレンサーの使い方は
「デジタイジング:ラスタデータの取り込みと幾何補正 」などが参考になります。
基本的には幾何補正をしたい画像とすでに座標がわかっている地図を並べて、同一地点をクリックしていく作業になります。
作業としては簡単ですが、今と昔で変化していない地点を特定するのは土地によってはかなり難しい作業になります。
左の地図の1点を選択して現在の地図上の同一地点をクリックすることで航空写真に座標を与えていきます。
航空写真と地図を重ねて「昔のまち探検マップ」をつくる
幾何補正した航空写真をQGISで開くと現在の道路や河川の地図と重ねることができます。
今回は、航空写真と現在の地図を別々に印刷しました。
現在の地図はトレーシングペーパーに印刷しています。
今と昔のハイブリッド地図です。
QGISのアンドロイド版も使用してみました。
タブレットにはGPSが搭載されているので、昭和23年航空写真を背景にして自分がどこにいるかを示すことができます。
しかし、QGISのアンドロイド版の操作性は、7インチタブレットを使う場合は劣悪です。
また、GPSのマーカーも黒丸なので、河川の上にいくと全く見えなくなってしまいます。
GeopaparazziやGeographicaなどのタブレット専用の地図アプリを使うのがスマートなのですが、Geotiffをタイル画像にするのがうまくいかなくて、現在のところ断念しています。
厚沢部小学校前からスタート
2015年11月12日にまち探検を行いました。
(以下の写真は後日、同じルートを娘たちと一緒に歩いたものです。)
厚沢部小学校前からスタートしました。
道路の位置がすでに昔と違っています。
かつては今の学校の中を道路が通っていたことを子どもたちはすぐに発見しました。
農事試作場庁舎跡地へ
現在の厚沢部町市街地は、檜山農事試作場の跡地につくられています。
農事試作場の庁舎跡地はかつては公民館が建てられていましたが、今は更地になっています。
航空写真にも農事試作場庁舎が写っています。
厚沢部保育所
厚沢部保育所は檜山農事試作場が町に払い下げられた後に最初に建てられた公共施設の一つです。
昭和39年に建設された厚沢部町内最古の公共施設です。
子どもたちは、昭和23年の航空写真には保育所の場所には畑しかなかったことを確認します。
みんな大好き「すどう商店」
子どもたち御用達の駄菓子屋さんです。
遠足のおやつはみんなここで買ってるみたいです。
昭和23年には厚沢部町新町周辺をほとんど畑と原野なのですが、すどう商店の場所だけは建物がありました。
お店の方にお話を聞くと、今のすどう商店の場所では、すどう商店以前に2人の経営者が商店を経営していたとのことでした。
昭和23年航空写真に写っているのは初代の商店のようです。
「メークイン発祥の地」碑
農協厚沢部支店の裏手にある「メークイン発祥の地」碑です。
町内に住んでいても知らない人は全然知らないこの石碑。
子どもたちは鬼ごっこなどの遊び場としてけっこう知っています。
やわらかな題字は澤口松雄町長です。
図書館は川の上
厚沢部町図書館は蛇行した厚沢部川を埋め立てて建設されています。
娘が立っているあたりが川の真ん中で、図書館入り口めがけてかつての川がのびています。
厚沢部中学校も川の上
厚沢部中学校もかつての川の上にあります。
娘が指さしている方角に川がのびていました。
最近は町営住宅の建設が進んでいます。
できれば旧河道の上は避けたほうがよいと思うのですが・・・
探検の結果を地図にプロット
GPSロガーで記録したトラックを昭和23年航空写真の上に表示してまち探検の成果を地図にプロットしました。
要所で撮影した写真もプロットしています。
昭和23年航空写真は学習指導要領的にどうなのか?
学習指導要領には第3学年第4学年社会科の「目標」として以下のような記述があります。
(2)地域の地理的環境,人々の生活の変化や地域の発展に尽くした先人の働きについて理解できるようにし,地域社会に対する誇りと愛情を育てるようにする。
(3)地域における社会的事象を観察,調査するとともに,地図や各種の具体的資料を効果的に活用し,地域社会の社会的事象の特色や相互の関連などについて考える力,調べたことや考えたことを表現する力を育てるようにする。
「地図や各種の具体的資料を効果的に活用し」というあたりが、道具としての航空写真や重ねあわせ地図を用いる強力な根拠になってきそうです。
また、学習の「内容」として以下のような記述が見られます。
(1)自分たちの住んでいる身近な地域や市(区,町,村)について,次のことを観察,調査したり白地図にまとめたりして調べ,地域の様子は場所によって違いがあることを考えるようにする。
ア 身近な地域や市(区,町,村)の特色ある地形,土地利用の様子,主な公共施設などの場所と働き,交通の様子,古くから残る建造物など
学習指導要領の言う
(1)身近な地域の特色ある地形
(2)土地利用の様子
(3)主な公共施設などの場所と働き
(4)交通の様子
(5)古くから残る建造物
などを調べるための資料として昭和23年航空写真はとても有効です。
「具体的」で「効果的」な資料として昭和23年航空写真はこれから社会科授業で積極的に活用していく必要があります。
そのためには、単に航空写真の画像があればよいのではなくて、現在の風景との対比が容易にできることや、航空写真上での現在地がはっきりとわかることが重要です。
QGIS+Geotiffは学校現場で普及するのか
そのような目的のためにはQGISをはじめとしたFOSS4Gツール群は非常に強力な機能を提供してくれます。
特にQGISはとても使いやすく、多くのGISフォーマットが利用でき、さまざまな他のアプリケーションとの連携も可能です。
しかし、学校の先生が授業の片手間にQGISの使用方法を習得することはほぼ絶望的だろうと思います。
独学での習得コストがあまりにも高いというのが、私の結論です。
したがって、学校現場でQGIS+Geotiffという形でGISが普及することはないでしょう。
もっとも現実味があるのは、タイル画像による米軍航空写真の配信とその画像をGoogleEarth上で表示し、道路などのベクタデータを重ねあわせられるアプリケーションをタブレット端末で操作するというものでしょう。
教育現場とGIS
指導要領や教科書会社が作成した指導計画などを読み込むと、驚くほど多くの地図を利用した学習内容が盛り込まれていることがわかります。
しかし、学校現場で米軍撮影航空写真の利用はほとんど行われていませんし、GISの利用はさらに行われていません。
考古・民俗・歴史などの分野では、旧版地図、米軍撮影航空写真、古い地籍図の確認は常識です。
歴史系の学芸員が配置されている自治体では、まず学芸員が手持ちの旧版地図や米軍撮影航空写真を整理して学校に提供する準備をすることが必要です。
とはいえ、考古・民俗・歴史系の学芸員でGISに触れたことのある学芸員はとても少ないのが現実です。
GISという高機能なソフトウェアに頼らない手法の開発や、GISをより身近なツールにし、習得コストを下げていく普及活用の工夫がこれからの課題です。
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