次期指導要領における小学校でのプログラミング教育 |
小学校からプログラミング学習が話題となっていますが、学芸員的には改正全体の方向性を見極めた上で教材研究や外部講師としての指導方法の改善に取り入れていきたいと考えています。
プログラミング教育はどのように記載されているのか
「第3 教育課程の実施と学習評価」の「1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」というところで述べられています。
この中で計画的に実施すべき学習内容として以下の2点が指摘されています。
ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要と
なる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理
を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
このうち「ア」の項目については現行指導要領にも同様の記載があり、引き続きコンピュータの基礎的な操作を身につけることが求められています。
話題となっているのは「イ」の部分で、次のような学習活動が求められています。
(1)プログラミングを体験しながら
(2)論理的思考力を身に付けるための学習活動
ここではプログラミングの体験は「論理的思考力」を身につけるための手段と位置づけられているようです。
第5学年算数でのプログラミングの実践
指導要領の中で、実際に「プログラミングの体験」が各学年の学習内容として記述されている箇所はあまり多くありません。
第5学年算数の「第3 指導計画の作成と取扱」の内容の取扱の項では以下のように記載されています。
(2) 数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年 〕 の 「 B図形 」 の(1)における正多角形の作図を行う学習に関連して ,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。条件を変えてさまざまな正多角形を描画するのにプログラミングの体験を取り入れることも可能であると記載されています。
唐突感が否めない記述だと感じるのですが、ここで例示されている「正多角形の作図」をプログラミングの体験として行うことは実際にどのような実践を想定しているのかが見えません。
純粋にプログラミングの問題として正多角形の作図を取り扱うならば三角関数の知識が必要となります。
指導要領が想定するものが見えない反面、妙に具体的であるところが悩ましいところです。
なお、文部科学省が公表している「プログラム教育実践ガイド」という冊子があるのですが、そこにも類似するような学習実践は記載されていません。
第6学年理科でのプログラミングの実践
第6学年理科の「第3 指導計画の作成と取扱」の内容の取扱の項では以下のように記載されています。
(2) 観察,実験などの指導に当たっては,指導内容に応じてコンピュータや情報通信ネットワークなどを適切に活用できるようにすること。また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。
「電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面」でプログラミングを体験することが可能としています。
これについては平成28年12月21日付中教審答申「指導要領別紙3-2 小学校段階におけるプログラミング教育の実施例」で具体的な例示があります。
例えば、身の回りには、電気の性質や働きを利用した道具があることをとらえる学習を行う際、プログラミングを体験しながら、エネルギーを効果的に利用するために、様々な電気製品にはプログラムが活用され条件に応じて動作していることに気付く学習を取り入れていくことが考えられる。
とし、さらに注釈で「例えば、外が暗くなると照明の明かりが自動的に明るくなったり、一定の時間が経過すると自動的に消えたりすることなど。」としています。
この部分を素直に理解する限り、第6学年理科で求められているものはプログラミング体験、コーディング体験ではなく、あくまでもプログラムを利用した電気製品があることを理解することにとどまっているように思えます。
総合的な学習でのプログラミングの実践
総合的な学習では、具体的な実践例は示されていません。
以下のような記載となっています。
第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験することが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。
プログラミングを体験することは必ずしも必須ではなく、「探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること」を指摘するにとどまっています。
無理にプログラミング体験を行う必要は感じられません。
平成28年12月21日付中教審答申
次期指導要領策定の考え方を示した平成28年12月21日付「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」の第5章4節「教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・ 能力」の中で「情報活用能力」として取り上げられている部分がプログラミングに関わる部分となっています。
情報活用能力の定義は以下のように示されます。
情報活用能力とは、世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉えて把握し、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力のことである。
また、「資質・能力」の注釈として「プログラミング的思考や、情報モラル、情報セキュリティ、統計等に関する資質・能力も含まれる。情報活用能力は、様々な事象を言葉で捉えて理解し、言葉で表現するために必要な言語能力と相まって育成されていくものであることから、国語教育や各教科等における言語活動を通じた言語能力の育成の中で、情報活用能力を育んでいくことも重要である。」とされています。
この文脈では「情報活用能力」の一つとして「プログラミング的思考」が挙げられています。
さらに、以下のような記述も見られます。
また、身近なものにコンピュータが内蔵され、プログラミングの働きにより生活の便利さや豊かさがもたらされていることについて理解し、そうしたプログラミングを、自分の意図した活動に活用していけるようにすることもますます重要になっている。将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」(注76) などを育むプログラミング教育の実施を、子供たちの生活や教科等の学習と関連付けつつ、発達の段階に応じて位置付けていく(注77)ことが求められる。その際、小・中・高等学校を見通した学びの過程(注78)の中で、「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するプログラミング教育とすることが重要である。
ここでは「プログラミングを、自分の意図した活動に活用していける」ことが重要とされ、プログラミングそのものの重要性が示されています。
また、ここで初めて「プログラミング的思考」の説明が注釈でなされています。
注76を読む限り「プログラミング的思考」とはアルゴリズム的な思考方法と考えられます。
注76 「プログラミング的思考」とは、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せ
が必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力のことである。
「プログラミング的思考」の育成
答申90ページからの「(3)情報技術を手段として活用する力やプログラミング的思考の育成」では以下のように述べられています。
また、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」などを育むプログラミング教育を通じて、身近なものにコンピュータが内蔵され、プログラミングの働きにより生活の便利さや豊かさがもたらされていることについて理解し、そうしたプログラミングを、自分の意図した活動に活用していけるようにすることもますます重要になっている。中学校においては、技術・家庭科(技術分野)においてプログラミング教育に関する内容が倍増され、高等学校でも情報科の共通必履修科目の新設が予定されている。小学校段階においても、文部科学省が設置した有識者会議による議論の取りまとめも踏まえて位置付けていくことが求められる。
具体的には、各小学校において、各学校における子供の姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情等に応じて、教育課程全体を見渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科等を決め、地域等との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められる。
各教科等における指導内容のイメージについては、別紙3−2に示すとおりであるが、算数や理科については、科学、数学と技術分野を総合的に重視するSTEM(Science,Technology,Engineering and Mathematics)教育の視点を踏まえ、例えば、理科において電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習等を行う際、また、算数において多角形などの図の作成等を行う際に、プログラミングを体験しながら、プログラミング的思考の良さに気付く学びを取り入れていくこと等が考えられる。その場合において、学校における適切な指導を行うためには、教科等における学習上の必要性や学習内容と結びつけられた教材等が重要となる。
また、総合的な学習の時間において情報に関する課題を探求する中で、自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、プログラミングを体験しながらその良さに気付く学びを取り入れていくことなども考えられる。このほか、芸術系教科において、創作活動とプログラミングを関連付けながら実施していくことも考えられるが、いずれの教科等においても、プログラミング教育が各教科等における学習上の必要性に支えられながら無理なく確実に実施され、子供たちに必要な資質・能力が育成されるようにしていくことが求められる。
各小学校が見通しを持ってプログラミング教育を行う単元を位置付け実施していくことができるよう、国は、新しい教育課程の実施に向けて、教育委員会や小学校現場、関係団体、民間や学術機関等と連携しながら、指導内容の在り方を検討して指導事例集としてまとめることや、各教科等における教育の強みとプログラミング教育のよさが結び付いた教材等の開発・改善を、その先の教育の在り方も見据えながら行っていくことが求められる。
プログラミング教育を実施することとなった教科等においては、前述の指導事例集等を参考に、各教科等の指導内容を学びながら、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験することを、各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせた「主体的・対話的で深い学び」の中で実現し、各教科等における教育の強みとプログラミング教育のよさが相乗効果を生むような指導内容を具体化していくことが求められる。
長い引用となりましたが、以下のようにまとめられます。
(1)小学校段階でもプログラミング教育の内容を位置づけていくことが求められる。
(2)プログラミング教育を行う単元は各学校ごとに学年や教科を定め指導計画を作成する。
(3)教科等における学習上の必要性や学習内容と結びつけられた教材等が重要となる。
小学校段階では個別の教科の必要や学習内容に応じてプログラミング教育を実施する単元をそれぞれに定め実践することとされています。
小学校段階におけるプログラミング教育
平成28年6月16日付け「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」(小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議)ではより踏み込んだ議論がなされています。
「2.これからの時代に求められる資質・能力とは」「(2)情報技術を手段として使いこなしながら、論理的・創造的に思考して課題を発見・解決し、新たな価値を創造する」ではプログラミング教育の重要性について以下のように述べています。
子供たちが、情報技術を効果的に活用しながら、論理的・創造的に思考し課題を発見・解決していくためには、コンピュータの働きを理解しながら、それが自らの問題解決にどのように活用できるかをイメージし、意図する処理がどのようにすればコンピュータに伝えられるか、さらに、コンピュータを介してどのように現実世界に働きかけることができるのかを考えることが重要になる。
また、具体的な能力として「プログラミング的思考」の重要性が以下のように説明されます。
そのためには、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力が必要になる。
こうした「プログラミング的思考」は、急速な技術革新の中でプログラミングや情報技術の在り方がどのように変化していっても、普遍的に求められる力であると考えられる。また、特定のコーディングを学ぶことではなく、「プログラミング的思考」を身に付けることは、情報技術が人間の生活にますます身近なものとなる中で、それらのサービスを受け身で享受するだけではなく、その働きを理解して、自分が設定した目的のために使いこなし、よりよい人生や社会づくりに生かしていくために必要である。言い換えれば、「プログラミング的思考」は、プログラミングに携わる職業を目指す子供たちだけではなく、どのような進路を選択しどのような職業に就くとしても、これからの時代において共通に求められる力であると言える。
つまり、「プログラミング的思考」は
(1)論理的に考えていく力であって
(2)情報技術の働きを理解して使いこなすために必要な思考
であると述べています。
さらに「プログラミング的思考」が高まることによって各教科の思考の論理性も高まると結論付けられています。
また、「プログラミング的思考」には、各教科等で育まれる論理的・創造的な思考力が大きく関係している。各教科等で育む思考力を基盤としながら「プログラミング的思考」が育まれ、「プログラミング的思考」の育成により各教科等における思考の論理性も明確となっていくという関係を考え、アナログ感覚を大事にしていくことの重要性等も踏まえながら、教育課程全体での位置付けを考えていく必要がある。
学校教育におけるプログラミング教育
続く「3.学校教育におけるプログラミング教育の在り方とは」では各段階において以下のような能力を育成するものであることが端的に示されていいます。
(小)身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。
(中)社会におけるコンピュータの役割や影響を理解するとともに、簡単なプログラムを作成できるようにすること。
(高)コンピュータの働きを科学的に理解するとともに、実際の問題解決にコンピュータを活用できるようにすること。
小学校教育におけるプログラミング教育の在り方
小学校におけるプログラミング教育のめざすものとしして「子供たちが、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験しながら、身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと、各教科等で育まれる思考力を基盤としながら基礎的な「プログラミング的思考」を身に付けること、コンピュータの働きを自分の生活に生かそうとする態度を身に付けること」とされています。
さらに「プログラミング教育の実施に当たっては、コーディングを覚えることが目的ではないこと[8]を明確に共有していくことが不可欠」とされ、「「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するプログラミング教育とすることが重要」と述べます。
「順次、分岐、反復といったプログラムの構造を支える要素についても、それを知識として身に付けることは中学校教育の指導内容に盛り込まれている」ことから、「小学校教育では体験の中で触れるということで十分であり、それ自体を教え込んだり、知識として身に付けることを指導のねらいとしたりする段階ではない」と述べ、小学校でのプログラミングは「体験」レベルで十分との立場を示しています。
総合的な学習の時間での取扱
「プログラミングを体験することが、総合的な学習の時間における学びの本質である探究的な学習として適切に位置付けられるようにするとともに、子供一人一人に探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要」とされ、また「地域の課題や環境に関する課題などにも対応できる教材の開発が強く求められる」としています。
総合的な学習の時間は自由度が高いだけにプログラミング教育が行いやすい反面、単なるコーディング体験となりかねないことから、新たな教材開発の必要性を要請しているものと読み取ることができます。
理科での取扱
「プログラミングを体験することが、理科における学びの本質である、自然事象について問題を見いだし、より妥当な考えを導き出す学習過程として適切に位置付けられるようにする」ことが必要であるとし、例示として「身の回りには、電気の性質や働きを利用した道具があることをとらえる学習を行う際、プログラミングを体験しながら、エネルギーを効果的に利用するために、様々な電気製品にはプログラムが活用され条件に応じて動作していることに気付く学習」などが挙げられています。
簡単に述べていますが、フィードバックプログラム制御のサーモスタットのような製品のプログラミングを体験する学習が小学校理科で実施可能なのか、どのような教材でそれが可能になるのか、悩ましいと思います。
算数での取扱
「小学校で筆算を学習するということは、計算の手続を一つ一つのステップに分解し、記憶し反復し、それぞれの過程を確実にこなしていくということであり、これは、プログラミングの一つ一つの要素に対応する」とし、「筆算の学習は、プログラミング的思考の素地(そじ)を体験している」と評価しています。
その上で「図の作成等において、プログラミングを体験しながら考え、プログラミング的思考と数学的な思考の関係やそれらのよさに気付く学びを取り入れていくこと」などが例示として挙げられていますが、抽象的すぎる印象です。「プログラミング的思考」や「数学的な思考」の「よさに気付く」とはどのような子どもたちがどのような気づきによって達成されるのかわかりません。
音楽での取扱
「創作用のICTツールを活用しながら、与えられた条件を基に、音の長さや音の高さの組合せなどを試行錯誤し、つくる過程を楽しみながら見通しを持ってまとまりのある音楽をつくること」、「音長、音高、強弱、速度などの指示とプログラムの要素の共通性など、音を音楽へと構成することとプログラミング的思考の関係に気付くようにすること」などが音楽の中でプログラミング教育として位置づけられています。
コンピュータを使って作曲的な活動をすることがプログラミング的思考の育成につながるのかは疑問です。また、楽譜の構造とプログラミングの類似に気づくということが、一定のコーディング経験なしで達成できるのかも疑問です。
まとめ
次期指導要領での小学校でのプログラミングの位置づけはあくまでも「体験」にとどまるレベルということは極めて妥当だろうと思います。
しかし、現実に教科に即してどのように体験させるか、という点については指導要領や有識者会議報告等においても明示されておらず「学校まかせ」の印象が強いものです。
「プログラミング教育」の導入ばかりが急がれた感が強く、十分な教材や指導方法が出揃っていないため、今後学校現場での取り組みが具体的な内容が決めていくしかないのだろうと思います。
























