QGISとGRASS GISを使ってスキー場適地を探す |
ふもとの傾斜がきついことを除けば、滑りやすくなかなか良いスキー場です。
唯一の欠点は、「雪が積もらない」ことです。
(写真では十分な積雪量がありそうにみえるのですが、ロープトウのライン上はところどころ裸地になっていますし、斜面もドンゲなどの固い草が顔を出していて危険なのです)
周辺のスキー場が次々とオープンしていく中、太鼓山スキー場だけは積雪不十分のため営業できないシーズンが多いのです。
雪が積もらない原因
道南とはいえ、内陸に位置する厚沢部町は、降雪量は十分にあります。
しかし、太鼓山スキー場は北西向きの尾根に立地しているため、檜山地方名物の「タバ風」によって斜面の雪が吹き飛ばされてしまうのです。
*背景地図はOpenStreetMapを使用しました。
(c OpenStreetMap contributors , CC BY-SA2.0)
太鼓山スキー場の立地が悪いことは町民の間でもよく知られていて、「別の場所に作ればよかったのに」と言われることが多いのです。
スキー場適地の条件〜厚沢部町内の南東向きの緩斜面〜
ようやく本題です。
北西向きの立地が悪いなら、反対側の南東向きの斜面を探せば良いわけです。
GISソフトウェアを使って厚沢部町内のスキー場適地を探してみることにしました。
使用したソフトウェアはQGIS2.0とGRASS GIS6.4.1です。
まずは条件を決めます。
地形属性は斜面方位と傾斜角度です。
「南東向き」という条件は決まっているので、斜面方位はN-90°〜180°-Eとします。
スキー場に適した傾斜角度というのがよくわからないのですが、とりあえず10°〜25°と考えてみました。
小学生や初心者が利用することを考えると妥当でしょう。
厚沢部町内の斜面方位
厚沢部町内の傾斜方位を区分してみました。
赤が北東、オレンジが南東、緑が南西、青が北西です。
なんとなく赤(北東斜面)が多いような気がします。
目指すオレンジ(南東斜面)もそれなりにあるようです。
太鼓山スキー場の斜面方位
問題の太鼓山スキー場の斜面方位は、赤(北東)と青(北西)に塗り分けられていて、大半が青(北西向き)です。
案の定、北西向きの斜面であることがわかります。
厚沢部町内の傾斜角度
厚沢部町内の傾斜角度を区分してみました。
青色が10°未満、薄黄色が10°〜25°、赤が25°以上です。
スキー場に適切と思われる薄黄色の範囲も少なくはないように思えます。
太鼓山スキー場の傾斜角度
参考までに太鼓山スキー場の傾斜角度をみてみると、一番広い面積を占めているのが10〜25°の薄黄色であることがわかります。
中央付近の青色(10°未満)はロープトウ終点となっている平場です。
また、斜面の裾部分が急傾斜になっている様子も読みとれ、太鼓山スキー場の特徴がよく現れています。
斜面方位ラスタを二値画像化する
最終的な目的は、
N-90°-E =< 斜面方位 < N-180°-E
10°=< 傾斜角度 <25°
の条件に合致する土地を見つけることです。
第1段階として、斜面方位ラスタを二値画像化します。
GRASS GISの「r.reclass」コマンドを使用します。
入力ラスタに斜面方位ラスタを指定し、「オプション」で「再分類ルールを含むファイル」で下記のような簡単な式を記述したテキストファイルを読み込みます。
90から180の数値を1、それ以外をNULL値に指定します。
0 thru 90 =NULL
90 thru 180 =1
180 thru 360 =NULL
作成した二値画像はこんな感じ。
傾斜方位がN-90°〜180°-Eのエリアが朱色に塗りつぶされています。
二値画像化した斜面方位ラスタをベクタ化(ポリゴン化)する
続いて、二値画像化したラスタをベクタ化します。
「r.to.vect」コマンドを利用します。
「入力するラスターマップ名」に先ほど作成した二値画像のラスタデータを指定します。
「出力するベクトルマップ名」を新たに指定します。
「地物フィーチャー」を「area」にするのを忘れずに。
ベクタ化されたラスタ
縮尺が小さすぎてわかりませんが、ポリゴン化されました。
拡大するとポリゴンであることがわかります
同じ作業を傾斜角度のラスタに対しても行います。
QGISにエクスポート
ポリゴン化した傾斜と方位のベクタファイルをshapefile形式でエクスポートしてQGISで開きます。
実は、この処理でけっこう時間がかかりました。
(2つのファイルを同時進行で、2時間くらいかかりました)
南東向きの斜面
オレンジ色が南東向き(N-90°〜180°-E)の斜面の範囲です。
けっこう豊富にありますね。
傾斜角度10〜25°の斜面
続いて傾斜角度のベクタを表示します。
薄黄色の範囲が傾斜角度10〜25°を示します。
QGISの「交差」コマンドを使う
「南東向き」かつ「傾斜角度10〜25°」の範囲を抽出します。
「ベクタ」→「空間演算ツール」→「交差」と進みます。
「入力ベクタレイヤ」に傾斜方位のベクタデータを指定し、「交差レイヤ」に傾斜角度のベクタデータを指定します。
今回のケースは「入力ベクタレイヤ」と「交差レイヤ」が逆でも問題ないと思います。
この処理はめちゃめちゃ時間がかかりました。
(5時間くらい)
「南東向き」かつ「傾斜角度10〜25°」の斜面
緑色のエリアがスキー場に適当と思われる「南東向きで傾斜角度10〜25°」の斜面です。
全町に分布しているので、それなりに選べそうですが・・・
市街地付近にもそれなりに適当な場所がありそうにみえます。
実際には斜面の直下に川が流れていたり、道路がなく接近できない土地だったりするわけで、簡単ではないのです。
*地形の分析に用いた傾斜角度及び傾斜方位のDEMデータは国土地理院発行基盤地図情報数値標高モデル(10mメッシュ)を使用しました。
*背景図として使用した河川、道路、建物、自治体境界は国土地理院発行基盤地図情報北海道(縮尺レベル25000)のデータを使用しました。