法政大学多摩シンポジウム実行委員会編『文化遺産の保存活用とNPO』岩田書院 |
地域おこし協力隊として来町中のK君の指導教官が馬場憲一さんだと知って、本棚から引っ張り出して再読。
文化遺産マネジメントの担い手
行政のもつ財源や人員が大きく減少しているという表現が正しいのか、行政に対する要請が増大しているという表現が正しいのかはともかくとして、行政が公的セクションの全てを担うことが難しくなりつつある、という認識がこのシンポジウムの前提です。
シンポジウム開催時期が東日本大震災から半年後で、ポランティアや市民の力が公的セクションの維持には欠かせないということが改めて確認されていた時期でもありました。
いずれにせよ、行政が全てを把握し、管理し、画一的手法でマネジメントを行うことは現実に合わなくなってきている、という認識があるのだろうと思いますし、私もそのように感じています。
文化財と文化遺産
「文化財」という用語は行政用語というか、文化財保護法に基づく法令用語として用いられることが一般的です。
それに対して、文化遺産という用語は、法令とは無関係に「文化的に重要な過去の所産」というような意味合いで用いられることが多そうです。
文化財という用語が画一的なイメージ、法的な厳密性を伴うことに対して、より自由度の高い、市民に解放された用語として「文化遺産」の利用度が高まっているのだと思います。
職業柄「文化財」の方がしっくりくるのですが、近年では文化庁でさえも、「文化遺産を活かした地域活性化事業」という名称の補助事業を導入しています。
「文化財」よりも包括的で自由度の高い「文化遺産」という用語・概念が完全に定着したと感じます。
もっとも、本書のパネラーである刈谷勇雅氏(元文化庁文化財監査館)は、「指定や選定、登録されたものだけが文化財でな」く、未指定の物件を「必ずしも文化遺産と言わなくてはいいような気がします」(p76)と述べています。
文化財保護法の規定する「文化財」の概念はかなり広いはずなのですが、現実には、指定物件のみを指すように捉えられる傾向があります。
私自身も、北海道道指定物件を「史跡○○跡」と表記した際に、「単に史跡とした場合は国指定物件を指すので道指定や町指定物件での使用は控えるように」との注意を受けたことがあります。
確かに、文化財保護法に基づく用語は使用が限定されると感じています。
いずれにせよ、厳密な行政用語である「文化財」よりも、市民に開かれた用語として「文化遺産」の使用頻度が高まり、逆に行政が追随せざるを得ない状況が生まれているのだと思います。
行政に対する不信
パネルディスカッションでは、NPO法人の代表である西山富保氏(NPO法人滝山城跡群・自然と歴史を守る会)、本田忠夫氏(NPO法人小石川後楽園庭園保存会)、脇坂圭一氏(NPOゲートシティ多賀城)らから、行政に対する不信感が述べられました。
・活動の中で行政とかかわる事項について、行政側の消極姿勢が目立つ(西山氏,p85)
・市と合意した事項を県に持っていくと却下される(脇坂氏,p90)
・地権者との協議で行政が関わるととうまくまとまらないことがある(西山氏,p94)
NPOの方々が一生懸命やって前進させようとすると行政と協力して進めなければならない事態となるけれど、そのような時に、行政の対応が今一つよくない、そのような不信感をNPOの方々が抱いていることがわかります。
持続可能なNPO活動
パネラーとして登壇された方々の所属するNPOはいずれも活発に活動しているように思えます。
しかし、財源や高齢化、担い手不足など、持続的な活動を行うための阻害要因がたくさんあるようです。
こうした現状を打破する一つの方策としてパネラーの刈谷勇雅氏(元文化庁文化財監査館)は、
(1)指定管理者がすでに関わっているケースにおいても広報活動や入場券のデザインはNPOの力を借りられるように管理契約に工夫をすること
(2)そのためには、NPOが出版や調査研究で高い水準のものを単独でつくる力をつけること
と述べていました。
高い技術や専門性をもつことがNPOにも求められるようです。
NPOの専門性とマネジメント
専門性や技術は行政や外部の専門家に任せて、自分たちは自分たちの実力の範囲でできることをやる、という「仲良しグループ」的なスタンスではNPOが持続的な活動を行うことは難しいのかもしれません。
NPOといえども、営利企業と変わらない技術力や、経営戦略、マネジメントが求められる、そういう時代なのだと思います。
そのような高い技術力や専門性をもつ人材をどれだけ組織の中に取り込めるかということが、今後のNPOの将来を左右するはずです。
新たなメンバーの参入障壁が低く、開かれた組織であることが、NPO活動を活発にする重要な要件となってくるのだと思います。