漫画「アイアムアヒーロー」の巨大ZQNがリヴァイアサンにしかみえないです |
ZQNの集合体、巨大ZQN
漫画ではZQN(作中でのゾンビの呼称)が合体して巨大なZQNになるのですが、完全に合体してひとつになっているというよりも、腕とか脚がたくさん生えていたりして、取り込まれたZQN(ゾンビ=元人間)たちが完全に融合したわけではないように見えます。
『リヴァイアサン』も人間の集合体
トマス・ホッブスの書いた『リヴァイアサン』は超有名な国家論+社会契約論ですが、ホッブスの描くリヴァイアサン=国家のイメージは口絵が示すようにけっこう不気味です。
丘の向こうから町を見下ろす巨大な王のような人物がリヴァイアサン=国家のイメージなのですが、この人物を拡大してみると、たくさんの人間でできています。
これらの人間がリヴァイアサン側を向いている(背中を向けている)というところがポイントの一つかと思います。
リヴァイアサンを形作っている人間たちの視線がリヴァイアサンに向かって一つになっている、というあたりがホッブスがイメージする国家像、社会契約像なのでしょう。
アイアムアヒーローの世界観
連載開始当初は「よくできたゾンビ・パニックホラー」という印象でした。
この手のパニックホラーはだいたい、パニックの原因(この場合だとゾンビ化の原因)を主人公がつきとめて、人類を救って解決というのが落とし所になるのでしょう。
アイアムアヒーローでは連載がかなり進んだ今では、作中のゾンビパニック自体は解決されるべき課題ではなくなりつつあります。
むしろ、パニックの行き着く先になにがあるのか、というあたりが焦点になってきているように思えます。
そもそもヒロインが半ゾンビ(もしかしたら主人公も?)で、作中ではすでに巨大ZQNに取り込まれています(身体はすっかり消化されちゃったみたいです)。
主人公は最後まで人間の姿形をしていてほしいな、と期待するところですが、すでにそれすらも危ぶまれる状況になっています。
ZQNの内部には「一般意思」がめばえている?
何を考えているかさっぱりわからないZQNたち(ストーリーの根幹にかかわる部分なので最後に明かされるのだと思いますが)ですが、巨大ZQNに取り込まれたヒロインは、巨大ZQNの中で普通の人間らしい意思疎通をしています。
もともと、巨大ZQNは人間性を失った(ようにみえる)ゾンビたちが合体してできているのですが、その中ではちゃんと人間性が保たれているみたいです。
ただ、ヒロインと会話をする「名も無き集積脳」は「数万の「個」が混ざりあって形成されている意識の集合体」と自己紹介しているので、個人の意識は消失しているようです。
この「意識の集合体」がルソーのいう「一般意思」っぽいなあ、と思うのです。
巨大ZQNの中身は「一般意思」かそれとも「全体意思」か?
リヴァイアサン=巨大ZQNの内部に「一般意思」っぽいものが生成しているというのは、すごくよくできた設定なんじゃないかと思います。
ただ、ルソーの「一般意思」とアイアムアヒーローの「意識の集合体」が同じものかどうかは、これまた作品の根幹にかかわる部分なので最後までわからないんじゃないかと思います。
ルソーが『社会契約論』で示そうとしたものは、リヴァイアサン=国家における国民的結合がどのように生成するのかということと一応理解することにして、そうすると、リヴァイアサン=巨大ZQNの内部に「一般意思」を具現化したような「集合意識」がめばえている、というのは筋が通っていると思います。
ただし、ルソーは個々の意思の集合(特殊意思の集合=全体意思)と一般意思を区別しています。
巨大ZQNの内部に生成している「集合意識」が果たしてどういう性質のものなのか、というのは作者のみが知る、ということなのでしょう。
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