ミニシンポジウム「文化遺産とまちづくり」【後編】 |
パネルディスカッションの様子をレポートします。
(1)中井報告を受けてのコメント
■佐藤永吉氏
館観光促進会の立場としては館城の復元をぜひ求めたい。
観光客をターゲットとして考えた場合、わかりやすく復元されたものが求められる。
外郭線の調査が進めば館城の復元が可能になるのかと思っていたが、復元には確かな証拠がないとのことで、復元の望みが薄くなってしまった。
この点については、住民の意見が届かなかったと思っている。
■久保泰氏
歴史文化基本構想のような関係する文化遺産を把握する取り組みが必要と考える。
館城の場合は「米揚げ岱」や「ロクロ場」のような地名が残されておりこのような地名も大切な文化遺産である。館城と関連づけて考えてほしい。
復元体感アプリについては、館城のような現地での復元が難しい史跡の場合には有効であると思う。
函館バスが行っている「道南史跡めぐり」というバスツアーとの連携を視野に入れた取り組みをして欲しい。
■後藤元一氏
全国の史跡整備の現場を見ると、地元の方は建物の復元を熱望されることが多いが、本来存在しないものをつくってしまうことは、史跡の歴史的価値を失わせてしまう。
松前藩が館城を築城した理由は、農業を基盤とした藩経営への転換が背景にあったと考えられる。
道南地域の農林業の歴史を考えさせる材料として館城を活用していくことが必要だ。
町内にある土橋自然観察教育林のような松前藩の森林開発の歴史を現地で体験することができる場所と関連させることで館城の価値も高まっていくと考えられる。
(2)元館城跡整備検討委員(奈良大学学長)千田嘉博氏の紙上コメント紹介
①土塁や柵の復元検証実験
・耐久性など管理面の課題、復元した際の見え方などの実証実験が必要
・地域の子供や市民に参加していただく体験学習と組み合わせて行うことで、効果的な事業となる
②柵は地中深くに埋め込まない方式で地下遺構を保全
・浅く埋設した基礎を利用した疑似掘立柱
・柵を地中深く埋める必要がなくなり、盛土が大幅に軽減できる
・すでに国史跡での採用例がたくさんある。
③堀の表現方法
・堀が滞水してもよいのなら整備手法はいろいろ考えられる。
・史跡全域での排水計画が必要だが、可能な限り堀は視覚的に分かるように凹ませたい。
④館城の縄張りは、日本伝統の築城法に最新の洋風築城技術を加えているのではないか
・松前藩は稜堡式の戸切地陣屋の築城経験がある。
・塁線の屈曲も砲座となる稜堡を意識していたことを想定する必要があり、純粋な和風城郭という評価は、改めた方がよい。
⑤堀は、塹壕のような役割かもしれない
・同時期のヨーロッパや南北戦争の砦では、堀よりも塹壕の役割が大きい。
・塹壕で身を守りつつ敵の突入を柵で防ぐ。
・銃列による弾幕で防御ラインをつくる。
・館城は実戦的な砦として機能した可能性が高く、単なる未完成の城という評価は検討が必要
・堀と柵の位置関係は塹壕陣地の防壁ラインという視点で解釈できる可能性がある。
⑥城門、柵・土塁などの復元
・館城を世界史的な近代的鉄砲戦を意識した野戦築城ととらえれば、現地でそれを体感できる塹壕線と柵列を立体復元する意義は大きい。
・四稜郭・五稜郭から繋がる、幕末・明治の戦いの姿が鮮やかに浮かび上がる。
⑦史跡の見せ方とゾーンニング
・全部の塁線を完全に立体復元するのではなく、いくつかの表示方法を取り入れるべき
・視点場から城の塁線ライン全体を俯瞰できるようにすることが重要
(3)千田コメントを受けて
■後藤元一氏
整備に先立ち、堀・土塁・柵の復元実験を行うことは非常に大切
地域によって気象条件などが異なっているので、地域にあった手法を考えるためにも実験が重要
■久保泰氏
堀・土塁・柵の位置関係が伝統的な和式築城の範疇では考えにくいという意見に賛成したい。
堀の役割については水処理が大きな機能だったのではないかと推測する。
築城半ばで落城していることや突貫工事で仕上げたことなどは残された資料から確認できる。
したがって完成形としてとらえるのではなく、工事の途中の形態を示している可能性を念頭に置くことも必要
■佐藤永吉氏
体感アプリのように現地にあったものが表現できることはすばらしい。
西洋技術が加わっていた可能性があるということでますます館城の価値が増したのではないか。
館城の歴史をつないでいくためには五稜郭との連携を進めていきたい。たとえば、館城と五稜郭で伝書鳩レースなどを考えていきたい。
(4)会場との意見交換
■前田正憲氏(松前町教育委員会)
松前城の周辺は「城下町遺跡」となっており、松前城と一体的にとらえて整備を進めていく必要を感じている。
厚沢部町にあって松前にないものは水田だと考えている。
松前では何度か水田開発が試みられているが、持続しない。
水田開発によって産業を興そうとした松前藩の歴史が館城に示されているところがすばらしいと考える。
■佐藤雄生氏(松前町教育委員会)
弘前で大学時代を過ごし、現在は松前町にいるので、城があるところには城下町があるという認識がある。
館城が落城しなかったらどのような城下町が形成されていたのかを想像すると興味深い。
■宮原浩氏(江差町教育委員会)
質問:歴史文化基本構想は「道南」のような広い枠組みでも実施できるのか。
回答:理論的には可能だが、普通は2~3自治体程度。自治体数が多くなるととりまとめる作業が困難になる(中井将胤氏)。
(5)総括
■中井将胤氏
整備において何を復元するべきかを考えることは、何を復元すれば館城の価値を表現できるかを考えることだと思う。
やり過ぎると取り返しがつかないことになり、足りなければ理解できなくなる。
千田氏のコメントは館城の堀・土塁・柵を館城の本質的な価値がもっともあらわれた部分であると評価したものと理解した。そのような評価を踏まえて今後の整備計画を考えていただきたい。
■佐藤永吉氏
現地に復元することが困難であれば、史跡外に設置されるガイダンス施設を館城の御殿をイメージした外観とすることを検討して欲しい。
当時あったものがイメージできるようなものが必要だ。
■久保泰氏
過疎地域で人口はどんどん減っていくかもしれないが、土地は未来永劫残る。
館城を土地とともに大切に守ってきた館観光促進会の伝統を評価したい。
館城整備事業が協働のまちづくりの取り組みとなることを期待したい。