「ヒノキアスナロ人工林の広葉樹林化学習会」in厚沢部 |
厚沢部町緑町にある「土橋自然観察教育林」で、2013年2月3日に開催された学習会の参加記録。
学習会の趣旨は、教育林内にある林齢約50年のヒノキアスナロ人工林を、本来の林の姿であるトドマツやミズナラの林に戻すための手法を学ぶものであった。
独立行政法人森林総合研究所では、『広葉樹林化ハンドブック』を作成しており、このハンドブックの解説や現地での指導を、北海道総合研究所林業試験場の今博計さんにお願いした。
学習会当日の様子やレポートは厚沢部町のHPからダウンロードできるので、ぜひ確認してほしい。
教育林内では2000年と2001年に記念植樹が行われた。
この場所の管理も今後の検討課題だ。
「広葉樹林化」への疑念
現地視察や学習会での討議の結果、ちょっと意外な視点の意見が提出された。
いろいろな立場の方に来ていただいたかいがあったというものである。
当日、会場から提起された「広葉樹林化」への疑念とも言いうべき意見には以下のようなものがあった。
(1)そもそも、植樹以前の林相をはっきりと断定できるのか。
(2)広葉樹林化するというが、人工林のヒノキアスナロは生育する余地がある。それを伐採して広葉樹化することの意味をきちんと検討したのか。
「広葉樹林化」の検討にいたる経緯
土橋自然観察教育林では2006年に「土橋自然観察教育林管理計画報告書」を刊行した。
報告書では、教育林の原生的な自然や原生状態へ戻りつつある自然、見本林のように教育的価値のある自然を「将来の世代へ渡すべき「自然」」と明記している。
教育林内に存在する人工林の扱いについては「検討課題」とされ、
(1)植林によって林床の固有植生が犠牲になっていること
(2)人工林育成には手間と予算が必要なこと
(3)人工林に植樹された針葉樹類を増やすという国有林時代の目的をわれわれが受け継いで施業していく必要性がないこと
などが問題点として指摘されている。
以上のような問題意識から、2011年に発足した「土橋自然観察教育林連絡協議会」では、ヒノキアスナロ人工林の管理手法について議論され、今後の管理の目標として、本来の林=広葉樹林に戻すことが検討され、今回の学習会へとつながったのである。
私としては「広葉樹林化」の方針は変わらないものと思っていたが、立場の違う人がいれば、また別の意見が出てくるものである。
人間の都合で自然をいじってよいのか
これまでの議論では、ヒノキアスナロ人工林は人工的なものであり、教育林にはふさわしくないということが前提だった。
考えればわかることだが、人工林であろうと天然林であろうと生物には違いない。
天然林を切ることは許されないが、人工林は人間の都合で処分してよい、というのはエゴイズムである。
学習会の前日の会話の中で、講師の今さんは、
50年前に植樹をした人たちは当時の価値観や当時なりの未来像があったはず。
その後、人間の都合で放置されてしまった木を現在の我々が不用になってしまったから切ってしまう、ということは何となく釈然としない。
仮に今、人工林を切って広葉樹林化を進めたとして、その先の50年後の人たちがそれをどのように判断するかはわからない。
50年後には50年後なりの判断で、別の選択がなされてしまうかもしれない。
将来の評価が不確定ならば、今のところは、50年前の人たちが望んだ当初の目標を全否定しないような方向で管理を検討できないだろうか。
という意味のことを述べていた。
これまでの議論の流れと方向が変わっていくのだが、人工林をまったく否定するのではない管理の方法を模索することが誠実な進め方だろう。
学習会を終えて、新たな課題を抱えることとなった。