北海道南部の遺跡立地の特徴(1) |
先日の記事「北海道南部の遺跡立地の変遷をグーグルアースで俯瞰する」で紹介した遺跡データを利用して、北海道南部の遺跡立地条件について概観してみる。
遺跡立地の法則性のようなものが見いだせれば、と期待している。
対象とした遺跡は、渡島檜山振興局管内の市町村。
遺跡立地として抽出した属性は、
(1)標高
(2)傾斜
(3)起伏量
(4)斜面方位
(5)河川からの距離
(6)海からの距離
の6つ。
(1)標高、(2)傾斜、(3)起伏量、(4)斜面方位は、国土地理院基盤地図情報「数値標高モデル」から算出した。
(2)傾斜、(3)起伏量、(4)斜面方位の算出にはQGIS(ver1.7.4)の「ラスター空間解析プラグイン」を利用した。
(5)河川からの距離、(6)海からの距離は国土地理院基盤地図情報「縮尺レベル25000」の「海岸線」、「水崖線」オブジェクトから、GRASS GIS(ver6.4.2)の「v.distance」コマンドで最短距離を算出した。
以下、ヒストグラムによって各属性の分布を概観する。
ヒストグラムの上限値は95パーセンタイルの上側の値とした。
標高
平均値は42.5m、中央値は31.8mである。
右に裾を引く分布である。
10m、22m、34mにピークをもち、他の属性よりもピークへの収れん度合いが小さい。
厚沢部町では標高10m以下には分布しない印象だが、こうしてみると10m以下の低地にもそれなりに遺跡が分布することがわかる。
傾斜
平均値8.086度、中央値は5.172度である。
標高と同じく右に大きく裾を引く分布である。
20度以上の急傾斜地にも遺跡が分布することがわかる。
ピークは2.5度で、基本的には傾斜が緩い地形に多く分布する。
8度あたりを境に遺跡数が急激に減少していることから、多くの遺跡は傾斜0〜8度の土地に集中して立地することがわかる。
起伏量
傾斜とよく似た属性で、遺跡所在グリッドと周囲8グリッドを加えた9グリッド内の標高差である。
10mDEMを使用しているので、遺跡中心点に長辺30mのグリッドをかぶせ、そのグリッド内の最大標高差が計量されていると考えればよい。
平均値3.758m、中央値2.304mである。
ピークは1.25mで、4mを境にそれ以上大きな起伏量では遺跡数が激減する。
分布の形は傾斜に似るように思えるが、傾斜よりもピークへの収れん度合いが高いようだ。
傾斜方位
8方位に分割して棒グラフとした。
遺跡の立地として、「南向きの緩斜面」が立地条件としてあげられることが多い。
南東から西にかけては確かに遺跡数が増えているが、南をピークとした分布とはなっていない。
ミニマムは北西だが、一番立地が少なそうに思える北よりも東に遺跡数が少ないのが意外だ。
河川からの距離
平均値1768m、中央値662mである。
150mと650mにピークをもつ二峰分布を示す。
150mに最大のピークがある。
今回利用した河川データは国土地理院基盤地図情報25000なので、ある程度大きな河川からの距離となっている。
低い方のピーク150mは、河川に面した立地といえるだろう。
高い方のピーク650mはちょっと遠いような気がするが、厚沢部川のような中規模河川からの距離となるため、枝沢沿いに立地する遺跡や、開けた台地上の遺跡については、本流から650mくらいのところに多く立地するようだ。
海からの距離
平均値3468m、中央値632mである。
右に大きく裾を引く分布で、ピークは175mである。
ピークに対する収れん度合いが高く、北海道南部では海岸線に沿って遺跡が密集することがわかる。
北海道南部の遺跡立地の特徴
量的データでない「傾斜方位」を除き、いずれも右に大きく裾を引く分布となっている。
遺跡の立地条件については、一定の中心性はあるものの、そこから大きく逸脱する立地条件でも遺跡が成立することがわかる。
また、明らかに正規分布とは異なる分布を示すこと、「標高」や「河川からの距離」ではピークが複数となることから、遺跡の性格や時代の違いをベースにする異なる母集団が背後にあると予想される。
さらに、遺跡の発見は開発行為の結果である場合も多く、現代の土地利用のあり方に発見遺跡の立地が制約されている可能性も多く考えられる。
「異なる母集団」には、現代の土地利用状況における地域差も考慮に入れるべきだ。
いずれにせよ、漫然と言われるような「河川に近い南向きの緩斜面」というだけでは遺跡の立地条件を説明できないことがわかる。
次回は、時代別、自治体別に遺跡の立地傾向をみてみたい。