自炊代行業者(書籍スキャン代行業者)が人気作家らに提訴された件 |
ITmediaニュース(2011年12月20日 16時44分)
以下引用
蔵書を裁断、スキャンしてユーザーが自ら電子化する「自炊」について、代行業者が行う場合は著作権法が認める私的複製の範囲を超えているとして、作家の東野圭吾さんら7人が12月20日、スキャン代行業者2社に対しスキャンの差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。
提訴に参加したのは東野さんや作家の浅田次郎さん、大沢在昌さん、林真理子さん、漫画家の永井豪さん、弘兼憲史さん、漫画原作者の武論尊さん。
訴えられたのは、愛宕(川崎市)が運営する「スキャンボックス」と、スキャン×BANK(東京都)が運営する「スキャン×BANK」。2社に対し、提訴した作家による作品のスキャンを行わないよう求めている。「違法行為であることを裁判所に認めてもらうのが目的」(弁護団)として損害賠償は求めていない。
今年9月、作家、漫画家ら122人と講談社など出版7社が代行業者約100社に対し、代行業者による自作の利用を許諾していないことを明記した上で、今後も作品のスキャン代行を行うかどうかを問う質問状を送付。多くの業者は対象となる作品のスキャン代行を行わない意志を表明したが、2社については「スキャンを継続しないという姿勢が確認できなかった」(弁護団の福井健策弁護士)ため、今後も著作権を侵害する恐れがあるとして提訴したとしている。
作家側はユーザー個人が電子化する行為は私的複製として「認められる余地がある」が、業者が大規模に客を募って行う場合は「私的複製に該当しないことは明らか」(弁護団)と主張している。
また電子化したファイルがネット上で流通するおそれも指摘し、「依頼者が電子ファイルをどのように使うのか、業者はそれを確認する措置をとっていない」ことも問題視している。
会見した作家の林真理子さんは「デジタル化については出版社と折り合いをつけて少しずつ進めている。ところがこういう業者がハイエナのようにやってきて不法なことをやっている」と話し、東野さんは「本を作るのは大変なこと。このままでは漫画家や作家が近い将来職業として成立しない可能性もある」と危機感を語った。
会見場に置かれた裁断済み書籍について、林さんは裁断された書籍について「本という物の尊厳がこんなに傷つけられることはとんでもないことだ」、武論尊さんは「作家から見ると裁断本を見るのは本当につらい。もっと本を愛してください」と話した。
引用ここまで
著作権法はなんと言っているか
提訴の根拠となっている著作権法の関連条文は以下のとおり。
著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)第30条第1項
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
個人が私的に利用する場合、使用者が複製することは許されている。
ただし、個人の私的利用でも複製が許されない場合が、例外規定として設けられており、以下の3とおり。
一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
原則として、著作権法は複製を禁じている。
だがしかし、「私的使用」に限っては、複製を認めている。
だがしかし、「私的使用」の複製にも例外規定があって、法第30条第1項の各号には私的使用であっても複製できない条件が定められている。
第1号は、コンビニなどにあるコピー機を利用した複製
第2号は、コピープロテクトがかかったビデオなどのプロテクトを解除しての複製
第3号は、ウェブ上の画像や動画のような違法にアップロードされたもののダウンロード
以上のような複製を考えておけばよいだろう。
このような複製は、「私的使用」を目的としていても禁じられている。
今回の判決で争点になりそうなのは、
(1)第30条第1項中の「その使用する者が複製することができる」という条文の「使用する者」に外注業者をふくめることができるかどうか
(2)同条同項第1号の「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」による複製にあたるかどうか
ではないかと思う。
第一の争点について、特許の場合では、ライセンスを得た者がその特許の使用を外注することが認める判例があるようなので、そのような考え方で、スキャンの代行も適法と考えることもできるのかもしれない(知的財産 知財経営 知的資産経営 コンサルティング ブログ)
第二の争点として、不特定多数から自炊を請負う業者の機械によって複製されることが、第1号の除外規定(「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」による複製)に抵触するかどうか。
普通に考えれば、コンビニのコピー機を使ってさえだめなものを、外注に出すのはなおだめなのではないかと思える。
ところが、著作権法附則には、
附則
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二 著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。
というのがあって、「これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする」となっている。
この条文を素直に読むと、スキャナとかコピー機での複製はセーフということになる。
コンビニのコピー機は使っても良いらしい。
そうなれば、「その使用する者」が請負業者を含むものかどうかだけが争点となって、この提訴でどのような判決がでるのかは混沌としてくる。
自分が買った本を自由に加工する権利は保障して欲しい
法的な解釈とは別に、購入した書籍を自分の利用しやすい形に加工することは、購入した者の権利としてが守られるべきではないかと私は思う。
裁断について、「本という物の尊厳がこんなに傷つけられることはとんでもないことだ」(林真理子さん)というような感覚の方には、本が裁断されてしまうのは耐えられないかもしれないし、私も自分が読み込んだ本を裁断するのは勇気がいると思う。
しかし、それは「羊はよいけれど、牛を食べるのは残酷だ」というのとそれほど変わらない感情なので、そういう価値観で他人を縛ってはいけないと思う。
自炊本の再流通を防げばよいのでは?
電子化した書籍の再流通を防ぐことができれば、つまり、自炊したデータ(又は裁断本)を契約者以外に送付しないことを厳密に監視できればこの問題は解決できるのではないかと思う。
「置き場がないから本を買わない」という状況が改善されれば、作家さんたちも損なことではないのじゃないだろうか。
「このままでは漫画家や作家が近い将来職業として成立しない可能性もある」と東野圭吾さんはいうけれど、漫画家や作家が職業として成立するかどうかと、自炊の問題は関係ないんじゃないかと思う。
CDやレコードのコピーは、かなり自由に行われているように思うけれど、それが原因で、音楽家が職業として成立しないような状況にはなっていない。
CD屋さんは困っているかもしれないけれど。
「(漫画は)機械部品のように自動的にベルトコンベアーを使って制作しているわけではないのです。丁寧にオリジナル性を大切にデジタル化されるならまだしも、大量に、一括して処理されれば質も落ちるでしょう。」
と永井豪さんはいうけれど、少年週刊マンガ雑誌こそ、質の低いペーパーで機械部品のように大量生産されている。
やっぱり言っていることがちょっとおかしいように思う。
あんまり話がわからないようだと、「どんどん買って、どんどん捨てて、紙や資源を大量消費して欲しい」というのが本音なのかと勘ぐってしまう。
バックには印刷会社とか流通業者がいたりしてね。
記者会見での作家さんたちの発言など
スキャン代行業者提訴で作家7名はかく語りき