北海道の全家庭が薪ストーブに変えたら脱原発に貢献するか? |
原子力発電をこの国で続けていくことは難しいと思う。
イデオロギーとかそういう問題ではなく、原子力発電所があまりにも危険な存在だった、ということが明らさまになってしまったからだ。
新たな原発を増やすということはもう、できないだろう。
今ある原子炉をただちに廃炉にすることはできなくても、稼働年数を終えた原子炉から順次廃炉にしていき、最終的には脱原発にもっていかざるを得ないと思う。
で、そのような未来を目指した場合、当面、原子力発電の代替えは火力発電=石油燃料の増大によってまかなわれると思われる。
原子力発電が脱石油をうたい文句に普及した背景には、石油資源への依存をなるだけ低く抑えておかなければならないという認識があったからだろう。
この認識そのものは正しくて、石油資源は電気だけではなく、機械や暖房機の燃料、プラスチック製品の生産など、今の社会を形作るもっとも根本的な資源である。
これに替わる資源を見つけるまで、人類は、とにかく石油資源の枯渇を先延ばししなければならない宿命にある。
「資源」という視点で考えた場合、原子力発電など、石油の代わりには絶対にならない。
原子力はプラスチックの原料にはならないのである。
で、我が家でも焚いている薪ストーブを、北海道の全家庭が導入したら、どれほどの石油資源節約になるのか、という点を考えてみた。
北海道の一世帯あたりの暖房用灯油消費量
北海道の1世帯当たりの灯油消費量は、1.7339キロリットル/年である(石油情報センター2009『平成18年度灯油消費量実態調査』財団法人日本エネルギー経済研究センター)。
家庭での灯油消費の大半は暖房用と考えられるが、このほかに、ボイラーや給湯器での使用が考えられる。
上記の実態調査による8月の灯油使用量の全国平均は16リットルとなっている。
16リットルを、とりあえず、一般家庭における暖房用以外の灯油消費量と考えたい。
すると、16リットル×12月=192リットル/年 が、暖房用以外の灯油の年間使用量と推測できる。
これを、北海道の1世帯当たりの灯油消費量である1.7339キロリットル/年から引いた
1.5419キロリットル/年が、北海道の1世帯が使用する暖房用灯油消費量と推計できる。
北海道の暖房用灯油消費量を推計する
さて、平成18年3月末時点で北海道の世帯数は、
2,580,577世帯
これに、1.5419キロリットル/年をかけた数字でもって、北海道における一般家庭が消費する暖房用灯油消費量の概算推計が算出できる。
2,580,577世帯×1.5419キロリットル/年=3,978,991キロリットル/年
北海道の全家庭の暖房を薪ストーブでまかなうことによって最低(灯油以外の暖房も、少数とはいえあるだろうから)、これだけの灯油を節約することができる計算となる。
年間3,978,991キロリットルの灯油節約はどのような影響を与えるか
日本の石油消費量6.8%増加、原発停止の影響で
2011.3.21 23:41
世界エネルギー研究所(ロンドン)は21日、東日本大震災で東京電力の福島第1原発など東日本各地の原発が停止した影響で、日本の石油消費量が少なくとも約6.8%増加するとの試算を発表した。
原発停止で不足する電力を、石油を燃料とする火力発電で補うと、日量30万バレルの石油が追加で必要になるとした。設備が古く発電効率が悪い場合は、石油需要はさらに増えるという。
国際エネルギー機関(IEA)によると、2010年の日本の石油消費量は全体で日量442万バレル。IEAは、日量約20万バレルの石油が追加で必要になると試算している。(共同)
福島第1原発をはじめとした、今回の震災を契機に稼働を止めた原発の代替え発電燃料として、石油の消費量が、日当たり30万バレル必要になってくるという。
30万バレル/日=300,000×159リットル=47,700キロリットル
47,700キロリットル/日×365日=17,410,500キロリットル/年
先に計算した、北海道の全家庭の暖房を薪ストーブでまかなうことによって節約できる灯油は、3,978,991キロリットル/年だったので、世界エネルギー研究所が計算した日本の発電用石油の不足分の22.8%に相当する。
この数字をどうみるかは、人によりけりだろうけれど、北海道でも頑張れば、原発1基分くらいの石油消費量減少に貢献できるんではないか、という希望が生まれてくる。
おまけに、外国産100%の石油に比べて、薪はまちがいなく国産、北海道産で供給される。
道内の林産業も活性化するんじゃないか、生産から流通に必要な石油資源の節約もできるのではないか、という期待が生まれてくる。
北海道全家庭の薪ストーブ化に必要な薪の量
北海道南西部の厚沢部町では、「ゴットー」=積んだ状態の断面が5尺×10尺を「一棚」とし、伝統的には、ひと冬で3棚の薪が必要だとされる。
私の実感だと、3棚では足りなくて、4棚くらいあった方が心に余裕が持てる。
「一棚」は長さ35cmくらいの薪を基準としているので、1.5m×3.0m×0.35m×4棚=6.3立方メートルの薪が必要となる。
で、北海道全世帯で必要な薪の量は、
6.3立方メートル×2,580,577世帯=16,257,635立方メートルとなる。
北海道の全家庭分の薪の供給は可能か?
少し古いデータだけれども、昭和60年の北海道の広葉樹の蓄積量は307,003,000立方メートル(管野弘一1988「道産広葉樹の資源状況と製材市場」『林産試だより
』)。
また、北海道の広葉樹林の年平均成長量は、1.3%程度とされている(峯村伸哉1985「広葉樹資源の現況と見通し」『林産試だより』)。
以上から、北海道内で持続的に利用可能な広葉樹資源は、
307,003,000立方メートル×1.3%=3,991,039立方メートル
これは、必要量(16,257,635立方メートル)の24.5%である。
残念ながら、北海道の全家庭に薪を供給する量には足りないようだ。
たとえば、必要量を3棚とし、供給家庭を集合住宅をのぞいて一戸建てのみに供給するとして、
3棚(4.425立方メートル)×1,175,000戸(道内の一戸建て住宅)=5,199,375立方メートル
でも足りない。
広葉樹だけではなく、北海道の森林蓄積の43.5%を占める針葉樹も対象に含めると、理論的には、一戸建てに3棚ずつ供給することは可能だが、あくまでも理論上。
山の頂上まで薪を切り出しに行くわけにはいかない。
結論として、北海道の暖房を全て薪ストーブでまかなうのは、無謀だとわかった。
すごく残念。
とはいえ、あらゆる手段で石油資源の節約と代替え資源の利用を進めなければいけないことは間違いない。
北海道の広葉樹の成長量を全て薪にすれば、原発停止による石油燃料増加分のうち5%くらいの節約にはなるのだ。
節電も含めて、石油製品全体の消費量を削減することが脱原発の第一歩だと思う。