宮城県のOさんのFBから写真を拝借。
2012年3月21日付け河北新報の記事。

以下引用(
元記事)
宮城・南三陸の高台遺跡多数 思わぬ足かせに
東日本大震災の被災地で計画されている高台移転で、埋蔵文化財調査(埋文調査)が思わぬ足かせになっている。住民が移転先にと希望する山林などには未調査の遺跡が多数あり、調査が長引けば移転が遅れかねない。復興を急ぐ自治体の要望を受け文化庁は新年度、被災3県に専門職員20人を派遣し、調査のスピードアップを図る。
■候補地選び難航
埋文調査は文化財保護法に基づき、事業用地の地下に遺跡が埋まっている可能性のある場合に行われる。切り土をする高台の宅地造成などでは調査を要するケースが多い。遺跡が見つかれば、本格的な発掘調査も必要となる。
防災集団移転促進事業で高台移転を計画する宮城県南三陸町では、4地区の移転候補地で中世戦国時代の館(たて)跡などの遺跡があることが分かっている。志津川の清水地区では住民が第1候補として要望した場所から遺跡が見つかり、次に検討した場所からも遺跡が見つかるなどし、候補地選定が難航している。
■困惑する被災者
同町ではことし4月にも、移転候補地の調査が始まる。調査に入る県教委文化財保護課は「数軒程度の小さな集落なら1カ月程度で終わるし、比較的規模の大きい館なら最長2年かかったときもある。こればかりは掘ってみないと分からない」と説明する。
同町志津川中瀬町行政区の多くの世帯が移転を希望する高台でも、古代の集落跡が見つかっている。早期の地域再建を望む区長の佐藤徳郎さん(60)は「被災者の今後の暮らしを優先してほしい。移転事業の見通しが早く立たないと若者は町外に流出し、高齢者も希望を見いだせない」ともどかしそうに話す。
佐藤仁町長は「高台移転できる場所は限られている。文化財を軽視するつもりはないが、1000年に一度の災害で数百年前の遺跡を優先し、いま生きる人たちが住めないのでは本末転倒だ」と言う。
一方で専門家からは「過去の津波災害で高台に移った形跡など、学術的に有益な遺跡がある可能性もある。住宅建設を急ぐ必要性は理解するが、きちんとした調査も必要だ」との声もある。
■岩手でも本格化
縄文期や製鉄関連の遺跡が多く見つかっている岩手県でも、埋文調査が控える。現段階で調査を要請する自治体は多くはないが、住民の移転合意が進めば今夏から調査の本格化が見込まれる。三陸沿岸道路や東北横断道釜石秋田線などの整備に伴う調査も想定される。
岩手県教委生涯学習文化課は「デジタル機器なども活用し調査のスピードを上げても、県内のマンパワーだけでは追い付かない」と頭を抱える。
文化庁も対策に乗り出した。全国の道府県から20人の専門職員を集め新年度、岩手県に10人、宮城県には9人、福島県に1人をそれぞれ派遣する。宮城ではさらに10月にも8人増やし、今後も事業の本格化に伴い人員態勢を見直す。同庁記念物課は「調査を迅速に済ませ、復興につなげたい」としている。
引用ここまで
文化財保護法93条、94条、96条の規定に基づく発掘調査が被災集落移転の妨げとなっているとの趣旨。
遺跡があると自由に工事ができない、というのはなんとなく常識になっているように思うけれど、具体的にどのような義務が課されるのか、一般の人はほとんど知らないいだろう。
以下、条文ごとに整理してみた。
周知の遺跡で民間事業者が工事を行う場合文化財保護法93条が適用される。
「周知の遺跡」は遺跡として普通に知られているという程度に意味で、現実的には都道府県の整備する包蔵地カードに搭載のある遺跡として運用されている。
同条第1項の規定は、このような遺跡で工事を行う前には、着工60日前に発掘届を提出するというもの。
事業者にはこれ以上の義務はない。
ここでいう事業者は、個人住宅の施主も含まれる。
60日前の提出ということは、発掘調査を行うならば、この間に行うのが原則と理解できる。
同条第2項では「当該発掘前における埋蔵文化財の記録の作成のための発掘調査の実施その他の必要な事項を指示することができる」とあり、文化庁は発掘調査のために着工時期を遅らせることも含めて発掘調査に必要な事項を指示することができる。
ただし、あくまでも行政指導であり、事業者がこれにしたがう義務はない。
なお、文化財保護法の93条、94条のいうところの「発掘」は、単に土木工事に伴う掘削を意味しており、普通の意味の発掘調査は、「発掘調査」と表現されている。
はっきり言ってまぎらわしい。
公共事業として工事が行われる場合被災集落移転は、こちらのケースの方が多いのかもしれない。
保護法94条が適用される。
事業者(事業主体の自治体など)に課される義務とその流れは以下のとおり
(1)工事計画策定にあたって、その工事計画を文化庁長官に通知する(94条第1項)。
(2)埋蔵文化財の保護上特に必要がある場合、文化庁長官から工事計画について協議を求める通知がなされる(94条第2項)。
(3)事業者は文化庁と協議を行う(94条第3項)。
(4)文化庁は94条第1項の通知があった時点で、必要な勧告をすることができる(94条第4項)。
(1)→(2)→(3)という流れと(1)→(4)という2つの流れがある。
なぜ2本立てになっているのかは不勉強でよく分からない。
重要なことは、記録保存のための調査をどのように行うのかは事業者である自治体が第一義的に考えるものであり、文化庁の権限は行政指導にとどまっているという点である。
言い換えれば、遺跡の調査よりも一刻も早い集落移転を優先させたいという固い決意が住民側にあるならば、これを拒むことは地元自治体としてかなり困難といえる。
今回の被災集落移転問題でも地元自治体は埋蔵文化財保護と住民生活の板挟みとなって苦労している。
不時発見の場合遺跡がないと思われていた場所を工事してみたら遺跡が見つかった、というケース。
以下のように進展する。
(1)遺跡の発見者(被災地集落移転工事の場合は工事の発注者)は、ただちに工事を中断し、遺跡の発見届を提出する(96条第1項)。
(2)文化庁は3ヶ月以内の期間で工事の停止命令を出すことができる(96条第2項)。
(3)3ヶ月以内に発掘調査が完了しなければ、1回に限り、工事停止の延長ができる(96条第5項)。
ただし、最初の停止命令からの期間が6ヶ月を超えてはならない(96条第5項但し書き)。
(4)文化庁長官は、遺跡の発見者が発見届けを出さなくても、(2)や(3)の工事停止命令を出すことができる(96条第7項)。
(5)工事のために損失を受けた者に対しては、国が「その通常生ずべき損失を補償する」(96条第9項)
93条、94条の場合と比べて、不時発見の96条の場合の方が、明らかに規制が強い。
損失補償の規定があることも注目される。
まとめ被災集落移転に伴う開発工事は、地元自治体の公共事業として行われるケースが多いと思われる。
その場合、保護法94条が適用されることになるのだけれど、94条の規制はきわめて弱く、ほとんど地元自治体の判断に丸投げされた格好になっていることが、今回のような悩ましい状況を生みだしていると思う。
すなわち、
埋蔵文化財の保護と住民の利便性や生活の保障を両立させることは、地方自治の課題として、地方自治体の責任において住民と協議しながら解決策を模索することが原則だ、と法令は言っているのである。
河北新報記事にある宮城県教委文化財保護課のコメント
「数軒程度の小さな集落なら1カ月程度で終わるし、比較的規模の大きい館なら最長2年かかったときもある。こればかりは掘ってみないと分からない」
は、正直な発言だけれど、住民に不安しか与えない。
文化財保護行政当局に必要な態度は、
(1)必要な埋蔵文化財調査は断固として実施する
(2)ただし調査期間を厳守し、住民合意なしの延長は行わない
この2点を明確化して協議に臨むことだろう。
繰り返しになるが、埋蔵文化財保護は基礎自治体の行政事務として行うことが原則である。
上記のようなルールを明示して、住民と合意形成することが誠意ある態度であり、また、自治体職員として当然の責務である。
「掘ってみないとわからない」というような責任逃れの発言はするべきではない。
宮城県教委が本当に新聞記事のコメントのように考えているのなら、この期に及んで腹のくくり方が甘い、としかいえない。
同業者として、そう思う。
参考 文化財保護法(土木工事等のための発掘に関する届出及び指示)
第九十三条 土木工事その他埋蔵文化財の調査以外の目的で、貝づか、古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地(以下「周知の埋蔵文化財包蔵地」という。)を発掘しようとする場合には、前条第一項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日前」とあるのは、「六十日前」と読み替えるものとする。
2 埋蔵文化財の保護上特に必要があると認めるときは、文化庁長官は、前項で準用する前条第一項の届出に係る発掘に関し、当該発掘前における埋蔵文化財の記録の作成のための発掘調査の実施その他の必要な事項を指示することができる。
(国の機関等が行う発掘に関する特例)
第九十四条 国の機関、地方公共団体又は国若しくは地方公共団体の設立に係る法人で政令の定めるもの(以下この条及び第九十七条において「国の機関等」と総称する。)が、前条第一項に規定する目的で周知の埋蔵文化財包蔵地を発掘しようとする場合においては、同条の規定を適用しないものとし、当該国の機関等は、当該発掘に係る事業計画の策定に当たつて、あらかじめ、文化庁長官にその旨を通知しなければならない。
2 文化庁長官は、前項の通知を受けた場合において、埋蔵文化財の保護上特に必要があると認めるときは、当該国の機関等に対し、当該事業計画の策定及びその実施について協議を求めるべき旨の通知をすることができる。
3 前項の通知を受けた国の機関等は、当該事業計画の策定及びその実施について、文化庁長官に協議しなければならない。
4 文化庁長官は、前二項の場合を除き、第一項の通知があつた場合において、当該通知に係る事業計画の実施に関し、埋蔵文化財の保護上必要な勧告をすることができる。
(遺跡の発見に関する届出、停止命令等)
第九十六条 土地の所有者又は占有者が出土品の出土等により貝づか、住居跡、古墳その他遺跡と認められるものを発見したときは、第九十二条第一項の規定による調査に当たつて発見した場合を除き、その現状を変更することなく、遅滞なく、文部科学省令の定める事項を記載した書面をもつて、その旨を文化庁長官に届け出なければならない。ただし、非常災害のために必要な応急措置を執る場合は、その限度において、その現状を変更することを妨げない。
2 文化庁長官は、前項の届出があつた場合において、当該届出に係る遺跡が重要なものであり、かつ、その保護のため調査を行う必要があると認めるときは、その土地の所有者又は占有者に対し、期間及び区域を定めて、その現状を変更することとなるような行為の停止又は禁止を命ずることができる。ただし、その期間は、三月を超えることができない。
3 文化庁長官は、前項の命令をしようとするときは、あらかじめ、関係地方公共団体の意見を聴かなければならない。
4 第二項の命令は、第一項の届出があつた日から起算して一月以内にしなければならない。
5 第二項の場合において、同項の期間内に調査が完了せず、引き続き調査を行う必要があるときは、文化庁長官は、一回に限り、当該命令に係る区域の全部又は一部について、その期間を延長することができる。ただし、当該命令の期間が、同項の期間と通算して六月を超えることとなつてはならない。
6 第二項及び前項の期間を計算する場合においては、第一項の届出があつた日から起算して第二項の命令を発した日までの期間が含まれるものとする。
7 文化庁長官は、第一項の届出がなされなかつた場合においても、第二項及び第五項に規定する措置を執ることができる。
8 文化庁長官は、第二項の措置を執つた場合を除き、第一項の届出がなされた場合には、当該遺跡の保護上必要な指示をすることができる。前項の規定により第二項の措置を執つた場合を除き、第一項の届出がなされなかつたときも、同様とする。
9 第二項の命令によつて損失を受けた者に対しては、国は、その通常生ずべき損失を補償する。
10 前項の場合には、第四十一条第二項から第四項までの規定を準用する。